名古屋高等裁判所金沢支部 昭和45年(う)97号 判決 1970年11月17日
控訴人・弁護人 金井和夫
被告人 中口敏明
弁護人 金井和夫
検察官 宇治宗義
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人金井和夫の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意第一点法令適用の誤りの主張について、
所論は要するに、被告人より押収にかかる現金六三、〇〇〇円の内金五万円は、法のいわゆる犯罪行為に供せんとしたる物には当らないのに、これを当るとして被告人に対し該金員を没収する旨言渡した原判決は、刑法一九条一項二号の解釈適用を誤つたものであるから破棄を免れないというにある。
よつて審案するに、原判決挙示の証拠によれば、所論の五万円は、被告人が右賭博を開張するに当り、賭客中賭金の不足を生じた者に対しその求めに応じ、賭金を貸与して賭博を続行させ、以つて被告人の賭博開張を継続させ、終局的にはこれによつて寺銭の増収を図る目的で、賭場にこれを持参し、賭客より徴収した寺銭と一緒に寺箱代用の手提かばん中に入れ、賭客の求めがあれば直ちにこれを取り出して貸与できる状態においていたものであることが認められる。思うに、右の如き賭博開張者によつて賭博の現場に持ち込まれ、寺箱代用の手提鞄中に一般寺銭と一緒に、賭客に対する貸付け準備金として入れられてあつた金員は、これによつて賭客の賭博行為を誘い、賭博の開張行為の継続を図るため、重要な役割りを果すものであつて、この意味において該金員は結局賭博開張の用に供されようとするものであるとみることができる。
以上の観点からすれば、所論の金員は、刑法一九条一項二号にいう犯罪行為に供せんとしたる物にあたると解釈するのが相当であると思慮されるので、これと同旨に出た原判決には、所論の主張する如き法令の解釈適用の誤りは存しない。論旨は採用できない。
控訴趣意第二点量刑不当の主張について、
所論は要するに被告人に対し懲役八月を科した原判決の量刑は重きに失し不当であるというにある。
よつて審案するに、証拠によつて認められる本件犯行の動機、態様、結果並びに被告人の経歴、前科、性行等ことに被告人は定職もなく、組織暴力団に属し徒食していたもので暴力事犯の前科を有し、その非行性、怠惰性は既に被告人の性格に定着していると推認されることに徴すれば、被告人に対し懲役八月を科した原判決の量刑は相当であり、所論のうち肯認できる諸事情を被告人の有利に斟酌しても、なおこれが重きに失するものとは認められない。論旨は採用できない。
よつて、本件控訴はその理由がないので刑訴法三九六条に則りこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 沢田哲夫 裁判官 河合長志 裁判官 石田恒良)